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TS小説『モテモテになりたい』

「あー……またひとつ、俺の恋が終わった……」
「いつもいつも、ご苦労さんだねェ」
 だいぶ日も傾いた放課後の帰り道を、二人の高校生が並んで歩いていた。一人はガックリと肩を落としてしょげ返り、その様子をもう一人がニヤニヤしながら眺めている。
 二年生に進級したばかりの4月。恋多き少年・岡本良男は、早速クラス替えで新しく一緒になった少女に一目惚れした。だが一瞬で惚れた相手には、フラれるのも一瞬だった。
「『友達でいましょう』だって? 良かったな、ストレートに迷惑だって言われなくて」
「うるせェよ! テメエ人の心の傷口に塩塗り込んで、そんなに楽しいか?」
 傍らで楽しそうにせせら笑うのは、悪友の片岡達也。高校入学以来、良男の幾多の玉砕ぶりを最も間近で見てきた男である。
「そもそも何でわざわざ勝ち目のない戦いをするのか、俺にはお前の感覚がよく分からんね。自分がモテないのは去年で十分自覚したろ? もうちょっと俺みたいに身の程わきまえて、違うことにエネルギー使った方がいいんでないの?」
「お前に俺の情熱が分かってたまるか。~ッ、ちきしょう! どうにかしてモテてェーッ!」
 良男の腹から出した怒声が、狭い住宅街にこだまする。青春の叫び、またの名を近所迷惑とも言う。
「……ン? 何だあれ?」
 ふと、良男が視界の片隅に見慣れないものを発見した。
 マンションの日陰にひっそりたたずむ、古ぼけた木造の建物。看板には『任神堂』の文字が見える。
「この道は何度も通ってるけど、あんな店あったっけ?」
「さぁ、記憶にないな。でもいかにも胡散臭そうだし、別にどうでも……」
「何か気になる。行ってみよう」
「えっ? おいおい」
 何か惹かれるものがあったのか、良男は誘い込まれるように入り口のドアを開けた。達也も慌ててついていく。
「うおっ、何じゃこりゃ……?」
 一歩足を踏み入れるなり、二人は思わず目を丸くした。十畳分ほどのスペースの中にいくつも棚が置かれ、置物やら衣服やら本やら、あらゆるジャンルのものが無造作に並べられていた。
「外も外だけど、中はさらに怪しさ抜群だな。何の店だよここ?」
「あっ、いらっしゃいませ!」
 二人してキョロキョロと店内を見回していると、奥の方から声が飛んできた。見ればこぢんまりとしたカウンターに、店員と思しきエプロン姿の女性がいた。
「お待ちしてましたよ岡本さん! ちょうど貴方にピッタリの商品があるんです!」
「は? いやあの、何で俺の名前を知ってんだ……?」
「どうですこちら、『飲むだけで必ずモテモテになる薬』! お値段五千円!」
「買った!」
 良男は超速反射でポケットから財布を取り出していた。
「待て待て待て待て! 何考えてんだお前? こんなあからさまにインチキ臭いモン買ってどうすんだよ」
「だって『必ずモテモテ』って言ってんだぞ! 『必ず』だぞ!」
「…………」
 止めに入ろうとした達也だったが、良男の本気の目を見てすぐに説得を諦めた。ここまでモテることに必死になっているのなら、最早好きにさせるしかない。どうせ損をするのは本人だけなのだから。
 店員のお姉さんは良男の意志を確認すると、すぐにたくさんの小瓶が入ったケースを持ってきた。
「それじゃあ早速調合に入りますね~。ちなみに岡本さん、理想の女性のタイプとかあります?」
「え、えっとねぇ、そうだなぁ――」
「巨乳でロング黒髪ストレート、性格は優しくて大人しめな感じでひとつ」
「何でテメエが言うんだ!?」
 良男がいろいろ考えているうちに、達也が勝手に口を挟んできた。
「訊かれてるのは俺だぞ! テメエの好みなんかどうだっていいわ!」
「いいじゃないか別に。お前だって、今までの告白相手の傾向からすると大体そんな感じじゃねーの?」
「あ、まぁ、確かにそうだけど……」
 途端に口ごもる良男。やはり友人、妙なところで気が合うものである。
 そうこうしているうちに女性は数種の液体を混ぜ合わせ、一本の小瓶にまとめて栓をした。
「は~い、できましたよ。このまま容器の中で半日ちょっと熟成させれば完成ですから」
「ありがとうございまーっす!」
「……まァそれでお前の気が済むなら、俺は何も言うまい……」
 ルンルン気分の良男を遠い目で見ながら、そんなことを呟く達也であった。



 明けて翌朝。達也がいつものように通学路を歩いていると、向こうから軽やかなステップでやって来る影があった。
「おーっす達也! 元気かい!?」
「……どうしたお前、朝っぱらから?」
「どうよ、今日の俺? 何か変わったところないか?」
「は? あー、別に何も変わってねぇよ。うん、いつも通りに変なだけだ」
 朝からハイテンションな良男を見て、達也は半眼で嘆息する。
「どうしたってんだよ一体? 何つーか頭大丈夫か? まァ今に始まった話でもないけどよ」
「今朝あの薬を飲んできたんだけどさ、何か凄く調子がいいんだ! 何か肌がつやつやになってきたし、体も軽くなったような感じがするんだ! 何か効いてるような気がするぞこれは!」
「軽くなったのはお前の脳味噌じゃないのか?」
 達也は呆れ顔で良男の期待感を一蹴する。
 と、その時だった。
「うっ……!?」
 浮かれ調子だった良男が、突然うめき声を発した。体勢を保てなくなり、思わず地面に手をついてうずくまる。
「? おい、どうした?」
「か、体が急に熱……うぐっ!?」
 良男の体が弾かれたように後ろへ伸びる。そして反らした良男の胸が、ブレザーの下からでもハッキリ分かるほど盛り上がってきた。同時に背も肩幅もグングン縮んでいく。
 刈り上げの頭からは溢れ出すように髪が伸び、あっという間に肩を通り越して背中あたりにまで達した。
 異変が全て収まった時、そこにはもう冴えない男子の姿はなかった。
「な、な……何じゃこりゃぁーっ!?」
 道路の端から端まで突き抜けるような悲鳴は、元の良男の声より優に1オクターブは高くなっていた。
「んなっ……おい! ここじゃ目立つ! とりあえず移動するぞ!」
「う、うん……」
 達也が咄嗟に良男の腕を掴む。その手も既に指先までほっそりとしており、下手に力を入れれば折れてしまいそうなほどだった。



 人目を避けながら路地を抜け、近くの公園へと駆け込んだ二人。
 良男がどっかとベンチに背を預けると、サラサラの長い黒髪も従うように後ろへ流れた。
 軽く呼吸を整えたところで、落ち着いて自分の体を見下ろしてみると……。
「お、俺の体に……胸が」
 目の前に堂々と突き出した、豊かで形の良い胸。ブカブカのブレザーを脱いでシャツ姿になると、その大きさは最早ごまかしがきかないレベルだった。
「これってホンモノなのか?」
「えっ? あっ、ひゃっ!? おい、やめろって……!」
 不意に達也の手が胸元に伸び、その大きな二つの膨らみを鷲づかみにした。手のひらでこねくり回すと、胸もその動きに応じて柔軟に形を変える。
「あっ、あっ、ンッ……!」
 絶妙な力加減で刺激され、良男は思わず顔を仰け反らせて声を漏らした。だがさすがに恐怖心が先に立ち、すぐに我に返る。
「やめろっつってんだろーが!」
「あっ、もうちょっと……」
「うるさい!」
 乱暴に手を払いのけると、慌てて胸を両腕で隠すように抱えた。
「何考えてんだよ! 勝手に触るんじゃねェ!」
「ンなこと言ったって、気になるだろ。目の前でこんな異変を見せつけられたら」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
 良男はモジモジしながら、何とはなしに髪の毛を指先でいじくった。
 生まれてこの方、髪型になどこだわったことのない良男。こんな背中や胸元まで届くほど長い髪は、もちろん初めてだ。それも綺麗なサラサラのストレート。
「うーん……見る限り、女にしか見えないな。ってことは、下はどうなってんだ?」
「しっ、下……?」
 良男の手が恐る恐るズボンの中へ突っ込まれる。だがどんなにまさぐってみても、そこにあるべき男の感触は得られなかった。
「…………!」
「どうした、ないのか? どれ見せてみ――」
「いい加減にしろッ!」
 達也がズボンに手をかけると同時に、良男が上から拳を振り下ろした。
「あだッ! あーすまん、つい気になって……」
「ついで済むか! こっちは大変だってのに!」
 ズボンをずり上げる良男。だがさっきまでと比べてウエストがゆるゆるになってしまっており、ベルトをきつく締めないと腰の下まで落ちてしまいそうだ。
「でも、俺一体どうしちまったんだ? 何だってこんなことに……」
「そりゃお前、どう考えたって昨日の怪しい薬のせいだろ。あれ以外に何が考えられるってんだ。……でもまさか、『モテモテになる』っていうのがこういう意味だったとはねぇ」
 達也が改めて良男の全身を眺める。その姿はまさしく、昨日達也が理想の女性のタイプとして答えた「巨乳でロング黒髪ストレート」にピタリ一致している。いや、達也でなくとも、この容姿なら確実に多くの男が心を奪われるだろう。『モテモテになる』との言葉に偽りはない。
 見れば見るほど達也の顔も赤みを増し、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「くっ、ちきしょうこうしちゃいられねェ! 行くぞ達也!」
「い、行くってどこへだ? 学校か?」
「こんな格好で学校なんか行けるわけねェだろ! 昨日の店に怒鳴り込みに行くんだよ!」
 良男は顔をしかめてベンチから立ち上がると、勢いそのまま道路へ向かって駆け出そうとする。
 だが。
「待った!」
「え」
 反射的に達也も立ち上がると、先を急ごうとする良男の腕を引っ張った。
「元に戻ろうってのか。ダメだ」
「ダメって、何でだよ! ふざけんな離せ!」
 構わず振り切ろうとするが、女の腕力では達也の本気の抵抗に勝てない。
 そんな必死で暴れる美少女に対して達也は、
「頼む良男、俺の彼女になってくれ!」
 と力強く言い切った。
 そのふざけ半分でない真剣な眼差しに、良男は途端に顔を沸騰させる。
「なっ、ななななな……何考えてんだお前は!?」
「俺、今ならお前の気持ち分かるぜ。たとえ勝ち目がなかろうと、恥をかこうと、好きになった女を何としても手に入れたい気持ち……!」
「おい、正気か? 俺は男だぞ、知ってるだろ?」
「仕方ねェだろ、たった今ひと目で惚れちまったんだから! 悪いがもうお前を男友達とは見れねェ! 好きなんだ!」
「す、好き…………?」
 その言葉が耳に入るや否や、良男の脳が激しく揺さぶられた。
 今まで相手に言うばかりで、一度も言われたことのない好意の言葉。しかも自分を最もよく知るはずの友人から、しかも女になったばかりで情緒不安定になっている状態で。
 それは良男の胸の奥に魔法のように染み渡り、正常な判断能力を根こそぎ奪っていった。
「達也……」
 気がつけば、良男はすっかり達也の腕の中に身を預けていた。二人は学校に遅刻することも忘れて、しばし静寂の時に浸った。



 あれから一週間。
「あ~、何だってこう、このクラスは鬱陶しいヤツらばっかなんだ……!」
 良男は群がる男子たちを必死で避けていた。
 冴えない男が突然とびきりの美少女になったことで、クラスは騒然。特に男子たちは飽きもせずに休み時間ごとに集まってきた。
「岡本ぉ、頼むから一発ヤらせてくれよ。お前も元男なら、俺らの気持ち分かるだろ?」
「何を勝手なこと言ってやがんだ!」
「じゃあせめてオッパイだけでも揉ませてくれ! お願いだ!」
「ふざけんな!」
 次々と伸びてくる魔の手を、しっしっと邪険に払いのける。
(はあぁ……。何で俺がずっとモテなかったか、今なら分かるわ。こんな欲望に満ちた目で見られたら誰だって嫌になる)
 だが皮肉にも、せっかく得た教訓を活かす場面はもう来ない。
 あれから落ち着いたところで例の店に行ってみたのだが、そこはもう建物ごと跡形もなくなっていた。最早元の男に戻る方法は全く分からない。仕方なく、今は女子生徒として通学しながら手がかりを探す日々である。
「とにかく! 冗談じゃねェ、誰が男になんか触らせるか! 気持ち悪い!」
 そう言いながら、良男はその胸の奥が微かに熱くなるのを感じた。
 女になった直後、達也に揉まれたあの日の感触が蘇る。
「相変わらず騒がしいな、お前らは」
「たっ、達也!?」
 脳裏に浮かんだ顔が突然目の前に現れて、良男は思わず声を裏返した。
 達也はひょうひょうとした顔で男たちの群れに割り込むと、良男を背にして立ち塞がる。
「あんまりコイツを追い詰めるんじゃねーよ。ただでさえ原因不明の病気で性別が変わっちまって、情緒不安定になってんだから」
「達也……!」
 良男の顔がにわかに紅潮してきた。
 学校をはじめ対外的には、良男の性転換は『原因不明の病気』ということにしてある。まさか『モテモテになる薬を飲みました』などとは口が裂けても言えるわけがない。
 そんなこんなのうちに、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「ほれ、さっさと席についた」
「チェッ。片岡はいいよな、『男時代からの親友』って美味しいポジションにいてよぉ」
「グダグダ言ってんじゃねぇっつの」
 達也が大きく腕を振って払うと、男子たちは不承不承席についていった。
「あ、ありがとう、達也」
 良男はホッと息をついた。達也の背中がやけに大きく見えるのは、自分の背丈が縮んだせいばかりではない。良男の中で、既に達也は他の男子とは全く違う存在に見えていた。
「いいよ別に。お前ももう少し堂々としてろよ。隙だらけだから狙われるんだよ」
 そう言い捨てて、達也も自分の席に戻ろうとする。良男はその脇にそっとすり寄ると、耳元で小さくささやいた。
「その隙を最初に突いたのは誰だっけ?」
「……!」
 達也があからさまに動揺するのを尻目に、良男はさっさと席に座った。その顔は元男の面影を感じさせない、恋する少女のそれであった。


終わり



<むつき>
 ふい~っ、やっと更新できました……。

9cebbdd5.jpg<シノブ>
 前にも増して時間かかったね。早くも飽きちゃったのかと思ってた。




<むつき>
 いやぁ、小説をアップしようと思って書いていたんですけども……。忙しくてなかなか手をつけらなかったのも大きいけど、それ以上にSS(ショートストーリー)というものに悪戦苦闘でした。書いてるとどうしてもダラダラ長くなってしまって、短くテンポよく終わらせるのが大変。

fde25c4a.jpg<シノブ>
 まァその辺は慣れるしかないでしょうね。そんな最初から凄いのなんて無理でしょ。




<むつき>
 とりあえず一発目ってことで、なるべくオーソドックスな話にしてみました。考えてるネタはいろいろあるんで、またこれから少しずつ上げていけたらいいなと思います。

fde25c4a.jpg<シノブ>
 何でもいいけど、次の更新は早めにしてね。

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2010/02/24 23:43 | Comments(0) | TrackBack(0) | 自作TS小説

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